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最高裁判所第三小法廷 昭和23年(れ)745号 判決 1948年12月14日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人徳永善輔辯護人風間力衛及び被告人田中利光辯護人坂井宗十郎の上告趣意は末尾添附した別紙書面記載の通りである。

被告人徳永善輔辯護人風間力衛上告趣意第一點について。

按ずるに連續一罪を構成すべき數多の行爲を判示するには各個の行爲の内容を一々具體的に判示することを要せず數多の行爲に共通した犯罪の手段方法その他の事実を具體的に判示する外其連續した行爲の始期終期、回數等を明らかにし且つ財産上の犯罪であって被害者又は賍額に異同があるときは被害者中ある者の氏名を表示する外他は員數を掲げ賍額の合計額を表示する等これによって其行爲の内容が同一罪質を有する複數のものであることを知り得べき程度に表示すれば十分であることは當裁判所判例の示す所である(昭和二二年(れ)第九二號、同二二年一二月四日第一小法廷判決言渡)。そして所論原判決の判示第四の(二)の各行爲は連續犯として判示したものであることは判文上明らかでありその判示方法は前掲判例の趣旨に添ったものであって所論の如き違法ありとは言い得ない。次に論旨は原審の證據説明を非難するので按ずるに判決における證據説明を親切ていねいにすることは望ましい事であり原判決の證據説明は簡に失するきらいがないではないがしかし證據説明は必ずしも證據の内容を一々摘示したり一々原文のまま寫録したりすることを要するものではなく或は其趣旨を摘示し或は其題目を掲げて判示事実又は他の判示證據と総合對照して其内容を認識し得る程度に擧示することによって如何なる事実が如何なる證據によって證明されるかを判文上示せば足るのである。そして原判決は被告人の原審公判における判示同趣旨の供述と窃盗被害者の作成した始末書とを證據として判示事実を認定したものであり右證據を総合して判斷すれば原判決の判示事実を認定し得るのであって連續犯の判示事実としては前記の程度で足りるのであるから從って原判決には所論の如き違法はない。

第二點について。

記録に徴するに本件被告人は九人の多數であり犯行は昭和二〇年一二月八日頃より同二二年三月一二日頃迄約一年三ケ月間に単獨又は二名乃至五名共謀して強盗傷人強盗各一件、強盗豫備二件、窃盗二三件の多數なる點に鑑み被告人が昭和二二年五月三日に勾留状を執行されてより同年一一月一〇日の原審第一回公判期日まで六ケ月餘を經過したとしても不當に長く拘禁されたとは言い得ない(被告人が所論逮捕の時より勾留状を執行される迄の間拘禁されたという事実は記録上明らかでない)。そして被告人は昭和二二年四月三〇日警察官の取調に對して本犯行を自白してより同年五月三日の強制處分における判事の訊問においてもまた同年五月一一日の檢事の取調並に同年六月二〇日の第一審公判期日において何れも本犯行を自白していることが明白であって、原審公判においてもまた前記各取調に當って爲したと同趣旨の自白をしたのであるから原審公判における自白は不當に長く拘禁されたことに原因して爲された自白とは言い得ない。そして拘禁と自白との間に因果關係のないことが明らかに認められた場合は刑訴應急措置法第一〇條第二項の不當に長く抑留若しくは拘禁された後の自白に當らないということは當裁判所數次の判例の示すところであるから論旨は理由がない。

被告人田中利光辯護人坂井宗十郎の上告趣意第一點について。

按ずるに第一審においては被告人の行爲を強盗豫備と窃盗の連續犯であると認定して懲役一年に處し未決勾留日數三〇日を通算したのに對し被告人及び同人の辯護人より控訴の申立をなし原審では右強盗豫備の點については證據不十分の理由によって無罪とし窃盗の事実のみを有罪と認めて第一審通り懲役一年に處し第一審で通算した未決勾留日數中三〇日を第一審同様通算した外原審での未決勾留日數中一三〇日を通算したことは判文上明白である。しかし刑事訴訟法第四〇三條の所謂不利益變更禁止の規定は被告人が控訴した事件又は被告人の爲に控訴した事件については控訴審の判決において第一審判決の主文の刑を重く變更することはできないという趣旨であってたとい控訴審において第一審が有罪と認定した犯罪事実中の一部分については犯罪の成立を認めないでしかも第一審判決と同一の刑を言渡したとしても第一審判決の主文の刑を重く變更したとは言い得ない。前段説示した通り原判決は第一審判決の主文の刑を重く變更したとはいえないから論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑事訴訟法第四四六條により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介)

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